今月は奈良県五條市で診療所を営んでいらっしゃる「鎌田医院」をご紹介致します。


書道は師範の腕前で、時々お茶会にも出席されるなど武者小路千家の茶道も嗜まれるという院長の鎌田善弘先生は、84歳になられた今も背筋がシャンと伸び、お元気に診療を続けていらっしゃいます。
善弘先生は昭和3年に種苗店の長男として生まれ、旧制五條中学時代に第二次世界大戦が勃発したため海軍経理学校に進学。終戦後は生業の種苗店を継ぐべく農林学校への進学を考えていましたが、お父様の勧めで昭和23年に設立されたばかりの奈良県立医学専門学校(現在の奈良県立医科大学)の一期生として医学の道に進まれました。


『医専』と聞くと、現在NHKで放映中の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』を思い浮かべる方も多いかと思いますが、まさにあの時代を善弘先生は生きて来られたんですね。
医専に入学後は外科を専攻し、奈良医大では8番目となる博士号を取得。医師免許を取得した昭和31年当時はまだ近隣に設備の整った病院が無かった為、6床の入院施設と手術室を持つ診療所を自宅で開業されました。


開業当時は患者さんも少なくお金も無かったので医療器具が不足していて、「レントゲンを撮る為に患者さんを自転車の後ろに乗せて近くの診療所へ行ったり、患者さんに処方する薬を近所の薬局に買いに行ったりしたこともあった。」と笑いながらお話して下さいました。
奥さまの容子様は「海軍経理学校出身なのに、診療所の経理は私任せ。」と仰っていましたが、夫婦二人三脚で真摯に患者さんに向き合っていた結果、次第に患者さんも増えて、五條市内のお医者さんの中で一番に自動車(日産ブルーバードを)購入し、往診できるようになったそうです。



 
ところがようやく診療所が軌道に乗りかけた昭和34年、善弘先生31歳の時に伊勢湾台風で近くの吉野川が氾濫し、診療所の一階部分が水没する被害にあわれました。その苦い経験から昭和46年には水害の心配が無い高台にある大阪千里に自宅を建てて転居し、平日は五條の診療所で過ごし、週末は千里の自宅に帰るという生活を長らく続けながら千里に診療所を移すことも考えていらっしゃったそうです。
しかしご長男が医学の道に進み、卒業後には幼少期を過ごした五條で診療所を継ぐと決意された為、千里移転計画を中止。平成2年に、足の悪い患者さんにも通いやすいバリアフリー仕様の診療所兼ご自宅に建て替えられました。


善弘先生は外科出身ということもあり、開業当初は盲腸などの外科手術もしておられましたが、地域医療に理解のあった善弘先生のお父様が県立病院の設立に尽力され、昭和47年には地域の方々念願の奈良県立五條病院ができました。それからは内科中心の診療所として地域医療を担い、要請があれば往診もされています。
ご長男はその後約束通り医師となり、総合病院勤務後、平成12年には善弘先生の跡を継いで鎌田医院副院長となられました。現在は副院長先生が主に診察をされ、院長の善弘先生は縫合などの外科的処置や薬の調剤を、看護師でもある副院長先生の奥さまがレセプト計算などをされています。
大学で消化器内科を専攻されていた副院長先生はエコーの診断に力をいれておられ、内視鏡の診断にも定評があります。そんなお医者様としての確かな力量は勿論、1人1人の患者さんにしっかりと時間をかけて診察と説明をされるので大変喜ばれています。また最近は街の保険薬局で薬を処方して貰う院外処方が多いですが、高齢の患者さんに不便をかけたくないから、と手間がかかる院内処方を続けていらっしゃいます。

五條市は奈良県、和歌山県、大阪府の県境に位置し、奈良県立五條病院は『僻地医療拠点病院』に指定されるなど、人口に対し医師が不足している地域です。そのような場所で長年に渡り地域医療に貢献されている鎌田医院の皆さま、これからも患者さんの為に優しい診察をお続け下さい。


(担当:福田 / 文:鈴木)

鎌田医院(かまだいいん) 様
 〒637-0036 奈良県五條市野原西1丁目6番8号
  Tel 0747-22-3138   Fax 0747-25-3803