黒松 美恵子

 今回は、10月号に引き続き、当事務所の社員旅行を後編として紹介いたします。
 みなさまもご存知の伊勢神宮に参拝いたしました。私も何度か参拝したことがありましたが、何も知らずに参拝していました。この度の旅行では大変勉強になりましたので、ご紹介いたします。

 伊勢神宮の正式名称は『神宮』で、天照大御神をお祀りする皇大神宮(内宮)と豊受大御神をお祀りする豊受大神宮(外宮)をはじめ、125社の宮社の総称です。神宮では「外宮先祭」といい、式年遷宮以外のお祭りは外宮から内宮の順で参拝します。また、神宮では、願うのではなく、太陽の恵みを受け、この世に生を受け、生きていること…ただただ感謝の気持ちで手を合わせます。
神宮の広さは、約5500ヘクタールで、内宮のご神殿を中心とした神域は93ヘクタールです。大御神の鎮座以来、全く斧を入れていない禁伐林となっています。


外宮
 ご祭神は豊受大御神で、衣食住や産業の守護神です。雄略天皇22年に、内宮の天照大御神のお食事を司る御饌都神(みけつかみ)として丹波の国から迎えられ鎮座されました。 以来、約1500年間、朝夕の二度、天照大御神をはじめとする神々にお食事をお供えするお祭り『日別朝夕大御饌祭』が御饌殿で行われます。お供えは、ご飯・塩・水・鰹節や鯛・海藻や野菜・果物などで基本的に自給自足されており、忌火屋殿で調理されています。




内宮
 ご祭神は天照大御神で、皇室の御祖神(みやのかみ)で太陽にも例えられる天上界の最高神です。約2000年前、天照大御神は皇女である倭姫命(やまとひめのみこと)とともに永遠の宮地を求め各地を巡行し、垂仁天皇26年に五十鈴川の川上に辿り着き鎮座されました。
五十鈴川にかかる宇治橋は、内宮への入口で日常の世界から神聖な世界へ、そして人と神とを結ぶ架け橋といわれています。内宮のお参りは宇治橋の前で一礼して渡り、五十鈴川では手水舎と同じようにお清めができますので、澄んだ流れで身も心も清めてからお参りするのも良いですね。

祭典 春に豊作を祈り、秋の収穫に感謝する稲作を中心とした営みを、日本人は2000年以上繰り返して来ました。天皇陛下から国民に至るまで神を祀ることは日本の大切な文化です。

祈年祭 春の耕作始めにあたり、五穀豊穣を祈るお祭りです。
神嘗祭(かんなめさい)年間1500回に及ぶ神宮の恒例のお祭りの中でも、最も重要なお祭りが神嘗祭です。神嘗祭は、その年に収穫された新穀を最初に天照大御神にささげて、御恵みに感謝するお祭りです。神嘗祭は、神宮で最も古い由緒をもち、天皇陛下の大御心を体して、天照大御神に新穀を奉り収穫の感謝を捧げる祭典です。また、天皇陛下は皇居の御田でお育てになられた御稲穂を神宮に御献進になり、両正宮の内玉垣に奉懸されます。内玉垣には全国の農家が奉献した稲穂も懸けられており、そこには天皇と国民の収穫奉謝の真心が一体となった光景が見られます。このように神嘗祭は、諸神に先立ち収穫の感謝を天照大神に捧げ、翌11月に天皇陛下は新嘗祭を行われて天神地祇すべての神々に収穫を感謝されます。古来お米を主食として生きてきた日本人にとり、神嘗祭は重要な祭儀であり、その意義は今日も古代から一貫して変わることはありません。

 そして、5月1日に、皇太子様が新天皇として即位される予定です。新天皇が即位する時には、色々な行事が行われますが、なかでも重要なのは、三種の神器と呼ばれる神鏡・宝剣・神璽(しんじ)が継承される儀式です。神鏡は天照大御神の形代(かたしろ)です。新天皇自らが「天皇に即位」したことを神鏡に告げる「賢所の儀」がおこなわれます。
また、新天皇が皇位を継承し即位してから最初の新嘗祭のことを「大嘗祭」といいます。天皇にとって自らの御代において一世一代の祭儀が大嘗祭であり、なかでも最重要なのは「天皇陛下が神々に新穀をお供えした後に自らもお召し上がりになる」ことで、皇祖神(こうそしん)である天照大御神はじめ天神地祇(てんじんちぎ)と天皇陛下がお互いに同じ新穀を食すことから相嘗といい、その目的は「神人共食(じんしんじょうしょく)」という神道の考え方にあります。それは「神々は天皇はじめ人々を守護することを保証する。天皇は神々を尊び敬い、祈りをささげ、神恩に感謝することを誓うとともに国家・国民の安寧と五穀豊穣に感謝する。」といった主旨だとされています。これは現行法において天皇陛下は「神ではなく人間」であり「象徴」とされますが、「天照大御神の系譜」であることから「相嘗」を通じて八百万の神々との契りを経てはじめて「日本国」の天皇と認められるのかもしれません。

神御衣祭(かんみそさい) 神様の衣を「神御衣」といいます。神宮では毎年春と秋に、天照大御神に和妙と呼ばれる絹と荒妙と呼ばれる麻の反物を、御糸、御針などの御料と共にお供えする神御衣祭が行われています。天照大御神だけを対象にする大変意義深いお祭りです。

式年遷宮 神宮の建物の横には、石が敷き詰められた敷地があります。内宮にも外宮にもそれぞれ東と西に同じ広さの敷地があり、20年に一度宮地を改めるためです。古例のままに内宮外宮の正宮を始め14所の別宮や宇治橋なども造り替えられ、大御神に新宮へお遷りいただく「皇家第一の重事、神宮無双の大営」とも讃えられる日本で最大最高のお祭りです。この制度は約1300年前、天武天皇のご発意により始まり、持統天皇4年(690)に第1回が行われ、平成25年には62回目の遷宮が行われました。
 建築様式は、唯一神明造と呼ばれ日本古来の建築様式を伝え、ヒノキの素木を用い、切妻、平入の高床式の穀倉の形式から宮殿形式に発展したものです。屋根は萱葺、柱は掘立など、その姿は簡素にして直線的で、素木の美しさを最も輝かせる建築様式と言えるそうです。



神宮を知り、様々な意味合いを学び訪れると、今までとは全く違う感覚でした。古来からの伝統や神と人々の生活の交わり、日本人に育まれた根底にある気質など、神宮の空気の中で感じることが出来たように思います。来年は、新天皇が即位されることに関連した特別な行事もありますので、この機会に神宮を訪れてみてはいかがでしょうか。