代表社員税理士 福田重実

 マイナンバー制(総背番号制)とは、国民個々に重複しない番号を付与し、それぞれの個人情報をこれに帰属させることで国民全体の個人情報管理の効率化を図ろうとするものです。氏名、登録出生地、住所、性別、生年月日を中心的な情報とし、その他の管理対象となる個人情報としては、社会保障制度納付、納税、各種免許、犯罪前科、金融口座、親族関係などがあげられます。多くの情報を本制度によって管理すればそれだけ行政遂行コストが下がり、国民にとっても自己の情報を確認や訂正がしやすいメリットがあると言われています。

 一方、国民の基本的人権が制限されたり、行政機関による違法な監視、官僚の窃用や、不法に情報を入手した者による情報流出の可能性があること、公平の名のもとに国民の資産を把握し膨れ上がった政府債務の解消のために預金封鎖を容易にすることを懸念する意見もあります。

タイプとしては、以下のものがあります。
・社会保険制度給付と保険料納付の状況を管理するために番号を付与するタイプ
・住民登録に基づいてすべての国民に番号を付与するタイプ
・納税管理を目的に税務当局がこれを利用するタイプ 

日本では、現在、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポートの番号、納税者番号、運転免許証番号、住民票コード、雇用保険被保険者番号など各行政機関が個別に番号をつけているため、国民の個人情報管理に関して縦割り行政で重複投資になっています。一人一つの共通番号を持ってあらゆる行政サービスを包括するものは現在のところ存在せず、これは先進国としてはかなり珍しいそうです。

2007年第一次安倍政権を揺るがした年金記録問題は複数の個人番号の運用による行政上の混乱が一因でした。かつて、佐藤内閣が1968年に「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置し、国民総背番号制の導入を目指したが頓挫した経緯があります。

2011年は社会保障・税一体改革の実現のため、共通番号制度の導入に向けた検討が進みました。政府・与党民主党(菅内閣 (第2次改造))は6月30日に「社会保障・税番号大綱」を決定して翌年には関連法案も提出されましたが、衆議院の解散に伴い同法案も廃案、政権交代後の2013年3月に与党となった自由民主党(第2次安倍内閣)により民主党案ベースで再度提出されました。当初の予定より1年遅れましたが、今後の方針として2015年中に国民への番号割り当てを行い、2016年1月には利用を開始する構えで、事前にICカードも配布する見込みとなっています。なお、国民に付与する個人番号の名称は「マイナンバー」に決まりました。また、この番号とは別に各機関のコンピュータ上にあるコンピュータで処理する番号を紐付けて、様々な機関で連携していくことが想定されています。

2012年6月、政府は省庁の枠を超えた情報システム戦略を担い、共通番号制度に関連したシステムの調達・管理なども担当する最高情報責任者(CIO)を民間人から起用する方針であると発表しました。システム整備の初期費用は2,000億円?4、000億円、年毎の管理・運用費には数百億円が見込まれるそうです。

2013年5月、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(いわゆるマイナンバー法)が国会で成立し、2016年(平成28年)1月から番号の利用が開始される運びとなりました。開始時期に備え、氏名・住所・生年月日・性別・個人番号が記載された紙の「通知カード」が送付されます。またこの通知カードを自治体の窓口へ持ち込み新たに手続きすることで、顔写真つきのICカードである「個人番号カード」に切り替えることもできるそうです。
このマイナンバー制の利用開始(平成28年1月)に先立ち、個人番号・法人番号が通知されるのが平成27年10月に全ての国民に対して番号を通知するとともに、カードの交付申請書類が郵送され、自分のカードの発行を希望する者は、所在地の市町村で本人確認のうえ、カード交付を申請するようになるそうです。この番号は個人が12桁、法人は13桁の番号が国内の全ての個人と法人に割り当てられ、例えば個人が婚姻により姓や住所が変更になっても番号は変わらないそうです。
総務省の案では、サラリーマンの場合は勤務先の企業が一括してカード申請がきるそうですが、企業の事務負担は増えることは確実です。但し、カードの受け取りには本人が当該役所の窓口に出向く必要があるため、申請時の手間が省けるとは言えないので、カードの発行は国が想定する程多くないかも知れません。
 
 国税庁によれば「法定調書の名寄や申告書との突合が、個人番号・法人番号を通じて正確且つ効率的に行えるようになり所得の把握の正確性が向上し適正・公平な課税し資する」としています。
納税者のメリットは@住宅ローン控除等の申告手続きにおける住民票の添付省略、A国と地方に提出義務のある給与・年金の源泉徴収票・支払報告書の電子的提出先を地方税当局への一元化程度で、当面は社会保障・税、災害対策の分野に限定されそうです。法人のメリットは特筆すべきものは無さそうです。実務的には源泉徴収票を発行する際には、従業員本人の個人番号を記載するとともに、扶養者の個人番号も記載し、発行者(事業主)の番号の記載も求められています。
法人がマイナンバー(個人)を取り扱う際は

@本人確認
A目的外利用の禁止
B提供の求めの制限
C情報の安全な管理

この4点に注意が必要になり会社の事務的な手間は確実に増加すると思われます。また取扱違反には罰則が用意され、万が一情報漏えいでは社名も公表され、信用失墜は免れないと思われます。
 
 以上マイナンバー制について述べましたが、制度の導入には、基幹システムの構築に3,000億円、以後の維持費に300億円程度かかるそうです。更にマイナンバーを利用する(させられる)自治体、金融機関、企業などもその導入費用(システムも改訂等)も数千億円がかかると想定されているそうです。中小企業対策のための予算が平成26年度は政府全体で1,853億円(補正予算を除く)にとどまっています。中々不況から抜け出せない中小企業が多い中、その効果があまりないと思われるマイナンバー制にかける予算はその費用対効果はあるのかどうか疑問です。